占星術の学者は、聖書の中でマタイによる福音書だけに出てきます。
聖書で学者という立場の人は他にも出てきますが、マタイによる福音書の
2章以外は、学者と言えば律法学者。
聖書の中で、律法や神の言葉の研究をする以外の学問をする学者・研究者は、
ここに出てくる占星術の学者だけです。
聖書の中で、ユダヤ人たち以外には最も読みにくいと言われるマタイによる福音書を、きょう、お読みいただきました。マタイによる福音書が読みにくい
理由は、この書物がイエス・キリストの系図から書き始めているからです。
旧約聖書をよく読み、学んできた人には、マタイによる福音書1章の系図は、聖書の歴史に関するダイジェストになっていること。要約文として
まとめられたものである、ということがわかります。ユダヤ人の家庭では、
自分たちが自分たちの民族の父祖であるアブラハムから何代目に当たるかを
子どもたちに教え、自分たちが神に選ばれた、由緒正しいユダヤ人家系であることを民族の誇りにしてきました。
マタイ1章には、系図がすべて書かれているわけではありませんが、全体が3つに分けて書かれています。アブラハムを始めとする父祖の時代、
ダビデ王朝の時代、王朝後期のバビロン捕囚の時代。
系図の中に書かれた名前にまつわるユダヤ民族のエピソードも、
父から子へと語り継がれてきた物語でした。
系図と、イエスの誕生までの経緯が書かれた後、
唐突に占星術の学者たちが出てきます。彼らの事をよく、「3人の博士さん」と呼びますが、お読みいただいた箇所で判るように、聖書は人数を書いていません。
ただ、彼らが持参した幼子イエスへの贈り物が3つあったため、多分、一人一つ、
3人いたのだろうと推測されただけなのです。
では、この、東の方から来た学者たち とは、何者でしょう。
伝説では、彼らは天文学者とも魔術師ともされる、マギという、異教の僧 または指導者だったのではないかとされてきました。
後にシルクロードと呼ばれる、中央アジアを抜ける道の途中の国で広まっていた、拝火教 ゾロアスター教のマギであった、と。
異教の僧であったのならば、なおさら、なぜ彼らが救い主やユダヤ人の王を
探して、長い旅までしたのか、疑問が残ります。
彼らについて、考えられる説として、先ほどの系図に出てきた国の名前が、
ヒントになるのではないでしょうか。
東の国から、占星術の学者が、ユダヤ人の王を探しに来た。
マタイによる福音書は、ユダヤ人に向けて書かれた福音書であると言われています。ユダヤ人たちの中で、キリストを受け入れた人々にわかりやすく、イエスの教えを伝えるための書物でした。
バビロンは、ユダヤ人たちにとって悲しみと苦しみの記憶の地でした。
自分たちに神が約束された地から連れ去られ、捕囚となり、自分たちの信じる神のために、自分たちの王が建てた神殿からも引き離された思い出の地です。
彼らが東の遠い国バビロンからユダヤ人の地に帰ってくることができ、
ようやく民族の誇りを取り戻した時代は、系図を通して彼らに新たな喜びを持たせる記憶でした。
学者たちは、東の国から来ました。彼らの専門は占星術。今でいう天文学です。
世界史の中で、天文学の最も古い記録を持っているのは、メソポタミア地方の国です。バビロンも、メソポタミア地方に古くからある国です。
イエスの生まれる2000年前には、メソポタミアで太陰暦の暦が作られていたそうです。月の満ち欠け、星の動き。生活の中で食物となる植物を育てるために、
バビロニアの人びとは古くから、空の星と自分たちの暮らしを関連付ける学びをしてきた民族でした。
ユダヤ人たちが、バビロニアとの戦いの結果として捕囚となり、
バビロンの人々はユダヤ人たちの信じる神について、聞く機会を得ました。
遠い昔、アブラハムが神に呼び出されて離れたバビロンの地で、捕囚となった
ユダヤ人たちは、バビロンの人々の知らない神を信じ、神から与えられた律法に従って生活していました。ユダヤ人たちの中には、捕囚先で出会った異民族と
結婚した者もいたことは、エズラ記などにも書かれています。
異邦人との結婚は、ユダヤ人としては嘆かわしい、間違った行動と考えられていました。ですが、ユダヤ人たちが厳しい環境の中で保ち続けた信仰は、バビロンの人々にも影響を与えていました。また、後にバビロンに勝ったペルシアの王はユダヤ人たちが約束の地に帰還することを助けた王でもありました。
旧約聖書のエステル記とエズラ記、ネヘミヤ記には、ペルシア王として
同じ名前が書かれています。ペルシアの王は代々、同じ役職で呼ばれていました。
バビロニアと同じく、ユダヤの東にあったペルシアには、ユダヤ人の神への信仰を持った王妃エステルが居たわけです。
イエスの誕生のころユダヤを治めていたヘロデは、ローマ帝国の皇帝から、
ユダヤ人の王、と名乗る許しを得ていました。
新約聖書の時代の少し前、当時ユダヤを支配していた国からのユダヤ人の
独立戦争が起こり、その英雄一族がユダヤ人国家を一時的に立てた時代がありました。ヘロデは、このユダヤ人国家の王族ハスモン家の娘と結婚し、
ユダヤ人社会に地位を得たエドム人です。
ユダヤ人たちにとって、自分たちの王家の一員として立ちつつ、
異邦人の国ローマから自分たちの王という名前を受けたヘロデは、
権力としては恐るべき王でした。しかし、民族としては外から入り込んだよそ者であり、宗教的には認めたくはない王だったのです。
そのヘロデの所に、「ユダヤ人の王」と捜しに来た「東の方から来た占星術の学者」。現代日本で聖書を読む私たちには、突然 聖書の中に現れた謎の人々ですが、マタイによる福音書を読んだユダヤ人たちには、もしかしたら、と思わせるヒントを持つ人々でした。
この人たちがイエスを探し当て、礼拝したことは マタイによる福音書にだけ書いてあるとお話しました。ユダヤ人キリスト信徒たちにとって、明らかに異邦人であるこの学者たちの示した信仰とその礼拝が行なわれたその日は、
現代の教会暦ではクリスマスの半月ほどあと、1月に入ってから「公現日」として記念されます。救い主として世に降られた神の子が、ユダヤ人たちだけでなく、異邦人にも表れた、記念の日とされているのです。
きょう、お読みいただいたもう一つの箇所、ガラテヤ信徒への手紙3章では、
イエス・キリストへの信仰によって、すべての人が分け隔てなく、神の子される、と、書いてあります。
ユダヤ人たちは、自分たちの民族の独自性をたいへん、大切にしています。
神に選ばれ、神の民とされたこと、神から守るべき律法を与えられ、神に従うために、自分たちを神の前に清いものとして保つ方法を知っている民族。
彼らは捕囚の地に居ても、ユダヤの地に戻っても、律法を守る民として自分たちを保つことで、民族として消えることも多民族と混じり合い独自性を失うこともなく、生き残り続けてきたのです。
ガラテヤ信徒への手紙3章は、ユダヤ人たちが熱心に守ってきた律法は、
イエス・キリストへの信仰によって与えられた神の約束によって、
もはやその役割を終えた、と、書いています。
ユダヤ人たちが大切にしている系図の中に、人間として誕生された救い主。
イエス・キリストは、救いを信じ受け入れた人々を民族にも立場にも関係なく、
神の子としてくださる、と、書いています。
ヘロデはユダヤ人社会で権力を手に入れるために、結婚や強大な異邦人国家に仕える努力をしました。
ユダヤ人たちは、自分たちの先祖が持つ、神と親しくあった記憶と誇りを保つため、律法を厳格に守り、自分たちの独自性を追求しました。
占星術の学者たちは、かつて自分たちの国に居たユダヤ人たちが信じる、
天地万物を造った神を信じていました。
学者たちは、自分の民族が長年、研究してきた天文学に、自分たちの信仰を反映させ、信仰をもって熱心に星を観察しました。
学者たちはかつてユダヤ人たちが言っていた、約束された救い主の誕生の時を見極める力を、信仰によって、神から受けていました。
神が彼らに導き手として備えた輝く星は、彼らを救い主の御前に導きました。
しかし、彼らの熱意に出会ったヘロデは、自分自身が努力して得た地位を脅かす者として、救い主を探し出し、殺そうとしました。
エルサレムに居たユダヤ人たちは、自分たちの国にやってきた異邦人の学者が、自分たちユダヤ人の王を探している、と聞いて、不安になったと書いてあります。
東の国で、真の神への信仰を持った学者たちは、ヘロデよりもユダヤ人たちよりも、ずっと素直に自分たちの信仰を幼子イエスに捧げました。
人として、この世に生まれ出た救い主を信じる者たち。彼らを神の子とするために、幼子イエスはベツレヘムで生まれました。ユダヤ人国家で認められることも、先祖代々、神に選ばれた民として保たれた誇りも、学者たちには無縁でした。
現代、私たちが神に認めていただいているのは、学者たちが示したと同じ、
救い主への信仰です。
神は、地上の権力も、民族も、生まれ育ちも、能力も関係なく、
ただ、私たちの信仰によって、私たちを受け入れ、認めて下さるのです。
感謝してお祈りいたしましょう。
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