「共に居て下さる方」

「おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる。」マリアは天使からこう話しかけられました。マリアはヨセフとの婚約の後、天使から自分が聖霊によって妊娠する、と告げられ「お言葉通り、この身に成りますように」と答えました。マリアはそのあと、親戚のエリサベツの所へ行きました。エリサベツは　ちょうどバプテスマの
ヨハネがお腹に居て、主イエスの母となるマリアが訪れた時、エリサベツの胎内でヨセフが喜んだ、と、ルカは記録しています。マリアがエリサベツのところに滞在したのは3か月ほど。家に帰ったころ安定期に入っていたでしょう。そろそろ、彼女の妊娠に
周囲が気づくころです。
　ヨセフは正しい人であった、とマタイは書いています。この正しい人、という言葉の
意味は「敬虔な人」とほぼ同じです。敬虔　という言葉を辞書で調べました。
「深く敬って態度を慎むさま」「信心深く慎ましやかなさま」敬虔な人は親切だ、とも書いてありました。結婚している男女が不義不貞を働いた、と判断された場合、律法によれば、相手と共に石打の刑に処せられます。正しくしかし優しいヨセフは、ひそかに縁を切ろうとした。相手が誰であっても、自分とマリアはすでに婚約を解消している。マリアは不義を働いてはいない、という状況を作り出そうとしたのです。
　ヨセフが悩んで悩んで決めた解決方法は、夢の中に現れた主の天使によってストップをかけられました。20節、天使はこう語りかけました。
「ダビデの子ヨセフ、恐れず妻マリアを迎え入れなさい」
ダビデとは紀元前1000年ころ、イスラエルを統一し王となったダビデ王のことです。
救い主はダビデの子孫に生まれる。そして、ダビデのようにユダヤ人の国を建て、王となる、と、預言されていました。マリアも、赤ちゃんイエスは神から、ダビデの王座を与えられると聞きました。ヨセフはダビデの子孫です。天使はヨセフをダビデの子と呼びました。あなたは王の血筋に生まれた人だ。神から遣わされる救い主は、あなたの
家系に生まれる。妻マリアを迎え入れなさい。離縁なんてとんでもない。マリアの胎内には、聖霊によって救い主が宿っている。その子は自分の民を罪から救う方だ、と。
マリアもヨセフも、その子をイエスと名付けなさい　と天使から教えられていました。イエスとは「神は我らの救い」という意味の名前です。
　きょうの旧約聖書イザヤ書7章は、マタイによる福音書で引用されている箇所です。
「見よ、おとめが身ごもって、男の子を産み　その名をインマヌエルと呼ぶ」
この言葉を預言者イザヤから聞いたのは、ユダの王アハズです。
ダビデが統一したイスラエル王国はダビデの孫の代で分裂し、南ユダと北イスラエルにそれぞれ別の王が立ちました。旧約聖書の列王記と歴代史に、王たちの名が記されています。北イスラエルには真の神、主の御心に従う政治を行う者は現れず、主に背いた国はアッシリアによって滅ぼされました。南ユダに立った王の中には、神に背く王と神と共に歩み、神の御心に従う王が入れ替わり立ちました。
きょうの箇所でイザヤが神からの言葉を伝えたアハズは神に従わず、王として外国の神を利用し、国中にそのための礼拝所を作ってしまった王です。北イスラエルとアラムの2国が、アハズを退けて自分たちの役に立つ王を立てようとしていると知った預言者
イザヤはアハズに、あなたの敵の企みは失敗すると　伝えに来ました。
アハズは、イザヤが伝えた神の言葉に疑いを持ちました。そんな彼に、主なる神は「私を試してみよ」と言ったのです。アハズの方から神が働くしるしとして奇跡を願い、
それが叶うなら、アハズも神を信じ従うことができるだろう、と。しかし、アハズは
願いませんでした。いかにも自分は神にまじめであるかのように振る舞い、「自分は神を試したりしない」と、拒絶しました。そんなアハズ王に示されたしるしが、
「見よ、おとめが身ごもって、男の子を産み、その名をインマヌエルと呼ぶ」でした。
神がアハズに示した言葉は、彼の息子の代で一旦、成就します。アハズの息子ヒゼキヤは、神と共に歩み、神の御心に適う政治を行って国内に真の神のための宗教改革を行いました。ヒゼキヤは神と共に歩む王でしたので、人々は彼のことをインマヌエルと呼んだのです。しかし、ヒゼキヤはやがて高慢になって神の御心から離れ、さらにヒゼキヤの息子マナセは祖父アハズのような悪い王でした。ユダにはインマヌエルと呼ばれる王は幾人か現れました。しかし、たとえ生涯を主と共に歩んだ王も、その信仰を継いでくれる後継ぎを残すことはできませんでした。ユダヤ人たちにとって結局は国を滅ぼし、やがてバビロン捕囚に繋がった王たちは、真のインマヌエルとは呼べない人々でした。
　イエスの母マリアは、天使から「主があなたと共に居られます」という言葉を受け、主の母となる役割を担いました。
私たちが神を信じる信仰を与えられる時、初めから神の御心に適う生き方ができる人は、ほとんどありません。洗礼を受け、それによって自分の存在は神に近づき、より神の御心に適う生き方ができるようになることを、私たちは自分に期待します。
けれど、私自身もそうだったのですが、信仰を持って生き始める時、私たちは自分の中にあまりにも多くの罪や罪の性質があることに気づいてがっかりして、落ち込んでしいます。聖く正しい生き方ができるようになることを期待するからこそ、「洗礼を受けたのに、自分はちっとも正しくない。自分は神にふさわしい人間では無いのか？」と、思ってしまうのです。でも、それは神が、私たちの信仰の眼を開いて下さるから。
自分自身も、世の中も信仰を通して見るようになる時、私たちは自分の問題が見えるようになり、とても不安定になります。
まるで、受胎告知を受けてから家に帰るまでのマリアのように。
信仰を与えられたばかりのクリスチャンの歩みは、まるで妊娠初期の大切に守られるべき母体のように、小さく弱い胎児のように、大切に守られ育てられる必要があります。
また、ヨセフに天使からの励ましが必要だったように、私たちの信仰生活には沢山の神からの約束と導きが必要です。天使は敬虔な信仰者であったヨセフに、大切にすべきは信仰者としての体面や正しさではなく、神と共に、神の御心を求めて生きる生き方なのだ、と示されたのです。　マリアは、天使によって伝えられた神からの役割を受け入れ、その身をもってインマヌエルの神を体験しました。主イエスは人間の胎児として
マリアに宿り、人の世に住まわれ、人と共に生きたインマヌエルの神です。
そして、十字架と復活を通して完全に私たちの罪を贖って下さり、再びご自身の霊である聖霊によって、私たちと共にいて下さいます。主イエスの誕生を祝うクリスマス。
私たちは神の側から私たちに近づき、共におられるインマヌエルの神に感謝し、
この方のお名前を以て私たちの信仰を表しましょう。イエス　神は我らの救い、と。　　　　　　　　　　　　　　　　お祈りいたします。